【路地裏ノ怪】そこにある “なにか”
執筆者: ウィム・スノート |
2025-07-08 01:11

これは、私が実際に体験した話です。
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あの日も、いつもと変わらず、私はメカニックとして、お店に立っていました。
工具の音、オイルの匂い、誰かの笑い声。
すべてがいつも通りで、少しもおかしなところなんてありませんでした。
いつものように、友人がお客さんとして、ボロボロになってしまった車を持ち込んできました。
私は修理をしようと、手元に集中していた――そのときです。
背中を、ぐいと強く押されました。
あまりに突然で、何が起こったのかわかりませんでした。
けれど、私はきっと誰かがふざけているのだろうと考え、冗談めかしてこう言いました。
「だれ~、ぶつかったの~?」
……でも、振り返っても、そこには誰もいない。
あるのは、壁だけ。逃げ場のない、行き止まりです。
隣では同僚が、目の前の友人と談笑していて、遠くでは、他のスタッフたちの笑い声が――妙に遠く、ぼんやりと聞こえていました。
「おかしい」と思った、その刹那。
今度は、目の前の友人が何かに引っ張られるように、前へと数歩、不自然によろけたのです。
私は思わず、口にしていました。
「……なにか、いる。」
すると、隣の同僚が、感情の抜けた低い声でぽつりと言いました。
「……ああ、またか。」
彼はそのまま大型の車に乗り込み、無言のまま敷地内をぐるぐると走りはじめました。
見えない “なにか” を、追い出すように。潰すように。
ひたすらに、何かを探るような軌跡で――。
やがて戻ってきた彼は、静かに車のドアを閉め、ぽつりと私に言いました。
「たまに、いるんですよ。……見えないけど。
放っておくと、こっちを怪我させようとするやつもいる。
だから追い出すか、潰すしかないんです。
なんせ、“見えない” んですから。」
冗談なのか本気なのか――
私はうまく返すことができず、ただ黙って頷くしかありませんでした。
……信じるかどうかは、おまかせします。
でも、もしあなたがこの街で――
“誰もいないのに、押された” 気がしたなら。
その場から、静かに離れてください。
それが、“あちら側” に引き込まれないための、最後のチャンスかもしれませんから。
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あなたの恐怖、不思議、あるいは――勘違いかもしれない何か。
私、ウィム・スノートは、そんな話をこっそり集めています。
内容は問いません。
街で暮らす“わたしたち”に起こった、ありえないはずの出来事。
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