【路地裏ノ怪】誰もいない世界
執筆者: ウィム・スノート |
2025-10-01 02:00

市民の皆様、いかがお過ごしだろうか。
少し涼しくなった秋の夜長、ふとした瞬間に人の気配がすべて途絶え、世界に自分だけが取り残されたような静けさが訪れることがある。
その静寂の瞬間、私たちは知らぬ間に “別の世界” へと踏み込んでいるのかもしれない。
今回は、先日提供いただいた素晴らしいお話を皆様にご紹介しよう。
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異世界、β世界線、マルチバース、そしてどこかの誰かが呟いた “サガルート” という言葉。
貴方はこれらを耳にしたことはあるだろうか。
このロスサントスの街では、にわかには信じがたい現象や物事が時折発生する。
今回はそのひとつ「誰もいない世界」についてお話ししよう。
この話は実際、私が体験した話。
いつも通り自室のベッドで目を覚ますと、アパートの外がずいぶんと静かなのに違和感を覚えた。
「あぁ、少し寝すぎたかな」
もともと朝の慌ただしい時間に起床することがない私は、この日も人々の移動が落ち着く正午ごろまで就寝していた。
身支度を整えて仕事に向かうため、アパートの扉を開ける。
アパートの周辺には車一台走っておらず、普段は文句をぼやきながら街中をふらついている心なき市民の姿さえ見えない。
「まあそんなこともあるか」
少しの焦りを隠すように呟きながら、ガレージから車を出す。
……車がない。
そんなはずはない、昨日ガレージにきちんとしまったはずだ。
何度もガレージの中を探すが、一向に見つからない。
「なんだこれ、何が起きてるんだ」
いよいよおかしい、周りの町並みはいつも通りなのに、触れるものはたしかにそこにあるのに、自分だけが世界に取り残されている感覚。
自分だけ……?
そうだ、今日は打ち合わせの日だ。
同僚のあいつはどうしているだろう。
スマートフォンに手を伸ばす。
どうやら電波はつながっている。
一縷の望みをかけて同僚に電話をかける。
…
…
『もしもし?』
つながった!
今自分に起きていることを一方的にまくしたてる。
うまく伝わっているのだろうか、こんなことを信じてもらえるのだろうか。
いや、もはや「電話がつながっている相手は本当にあいつなのか?」という疑いさえ抱き始めていた。
それまで黙って聞いていた電話先の相手が答える。
「そこ、もしかして『異世界』じゃない?」
――は?異世界?何を言っているんだ?
あまりに現実感のないその言葉に呆気を取られる。
しかし今、身の回りに起きていることこそ現実感がないのも確かだ。
それにこいつはこの手の話を好んでいると聞いたこともある。
藁にも縋る思いで対処方法を聞いてみた。
「まずポケットに入っている物を一つ、地面に置いてみて。
そのあと、それを拾おうとして上手につかめなかったら…」
つかめない!今そこに置いたのに!
「やっぱり、異世界に迷い込んでしまったみたい。
慌てないで、落ち着いて、一度目をつぶって、瞑想して…」
一度電話を切り、言われた通り目をつぶり、気持ちをリセットする。
どれくらいそうしていただろう。
意識がはっきりしてきた気がする。
再び目を開ける。
するとそこには今までの風景とともに、道行く車、町を歩く人々、そしていつもの喧騒が戻ってきた。
そう、戻ってきたのだ。
ぼんやりした意識のまま、あいつに電話をかける。
「よかった、戻ってきたね」
その後聞いた話によると、この街では時折私のように『異世界』に迷い込む者があるのだという。
目を覚ます前、夢うつつの状態で慌てて体を起こそうとすることで『異世界』に誘われてしまうことがあるらしい。
とはいえ、実際のところの原因はわからない以上、予防策はない。
もしあなたが『異世界』に誘われてしまった際には、この話を思い出してほしい。
なお、この『異世界」でとった行動は、現実世界にも影響を及ぼすことがあるらしい。
この日、車を取り出そうとしたガレージの前に、私の車によく似た車が4台~5台も折り重なって放置されていたという。
こうなってしまうと警察に協力していただいて処理してもらわなければならない。
この『異世界」の噂とともに心に留めていただければ幸いである。
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いかがだっただろうか。
あなたの恐怖、不思議、あるいは――勘違いかもしれない何か。
私、ウィム・スノートは、そんな話をこっそり集めています。
内容は問いません。
街で暮らす “わたしたち” に起こった、ありえないはずの出来事。
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