カレーフェス潜入調査報告書【イベントレポート】

執筆者: いつのまにか宇宙人に乗っ取られていた常磐竜胆 | 

2025-10-28 21:30

サムネイル:カレーフェス潜入調査報告書【イベントレポート】

我々の惑星は衰退の危機に瀕している。
罹患者の食欲を著しく減退させる奇病が蔓延してからというもの、食への興味を失った社会は停滞し、文化や学問の発展も望めなくなってしまった。

元より他惑星文明の監視を続けていた私は、地球という星にて現住知的生命体が作り出した「カレー」という料理が人々の食欲を刺激し、熱狂させているという事象を観測した。
我が惑星の文明を存続させるためにも、私は単身地球に潜入し、現地調査を行うこととした。


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地球に降り立った私は、ブレイン郡パレトベイへと向かった。
事前調査によるとこの日は、街中の飲食店が一堂に会し、各々の店舗で開発した多種多様のカレーを販売する「カレーフェス」というイベントが開催されるという。
会場には数多くのキッチンカーが並び、独特の香ばしい匂いを周囲に充満させていた。
この匂いは、私たちが長らく失っていたものを思い出させる……そんな気がした。

地球時間: 西暦2025年10月19日 午後9時30分。
いよいよそのイベントは幕を上げた。

「超カレーだよ!」
「やばいよねぇ!」
「すげぇ嬉しい!」
この日を心待ちにしていた人々の声が聞こえてくる。
それだけカレーという地球料理が人々に愛されているということだろう。

まずは主催店舗である止まり木でビリヤニを購入。
事前調査で見ていたものとは少し違うようだが、こういった出会いも現地調査ならではだ。
ちなみにこのビリヤニは市長補佐から頼まれて開発した商品だという。
行政機関をも虜にする魅惑の香りが、異星人たる私の嗅覚さえも刺激する。
備え付けの食器を用い、おもむろにそれを口に含む。
感じたのは辛さだけではなかった。
様々な材料が組み合わさることで生まれる香りの調和が渦を巻き、思考回路をかき乱す。
食べる。食べる。食べる。
初めて目にしたはずの地球料理を口に運ぶ手が止まらない。
次に呼吸したとき、器は空になっていた。
美味かった。一時の余韻、吐く息がほんのりスパイシーだ。


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更に調査を行う必要がある。
私は順番にキッチンカーを巡り、各飲食店のカレーを調査した。

驚くべきことに、全ての店舗において一つとして同じカレーは存在しなかった。
煮込む具材やトッピングが変わるだけでその味わいは多種多様に変化する。
同じ具材が使われていたとしても、使用するスパイスの配合を変えれば全く異なった味わいが生まれてしまう。

地球各地の食文化にちなんだアレンジを施したカレーも魅力的だ。
例えば、福臨宴では蟹をメインの具材とした中華風のカレー、料亭 財閥では鰹と昆布の出汁をベースとした和風のカレーを食することができた。

ビジュアル面でも実に個性豊かだった。
地球に生息する動物たちをかたどったカレーはどこの店舗でも愛くるしい見た目で楽しませてくれたし、地球から見られる星座をモチーフに盛り付けを行ったBetelgeuseのアイデアには驚かされた。
食事を楽しむという文化が無かった我々の文明が学び取るべきことは多い。

また、カレーという料理の汎用性は高いらしく、様々なアレンジレシピも存在していた。
Bakery Canvasのカレーパンは気軽に食べることができるから、この報告書をまとめていて小腹がすいたときに食することにしよう。手土産として故郷の同胞に配ったっていい。
ところで、私が最初に食したビリヤニはカレーの仲間なのだろうか?
カレーの調査のために地球に降り立って、一番初めに食べたのがビリヤニとはこれ如何に。


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カレーフェスといえど、カレーを食べるだけのイベントではなかった。
会場に集まった地球人たちがより盛り上がれるようにと、ミニゲーム大会と航空機パフォーマンスショーも企画されていた。

地球料理カレーの調査を目的としていた私だったが、せっかくならばとミニゲーム大会にも参加してみた。
ゲームの内容は、ゴミ箱を被った状態で無数の立て看板の設置されたコースに突進してゆきゴールを目指すという単純なもの。
しかし、単純なルールながら、よく練られたコースは難易度が高く、多くの挑戦者が途中の立て看板に引っかかり途中離脱となってしまった。
その中で一番最初にゴールに到達することができた乃水ダイ氏は次のように語った。
「本当は最後の方に挑戦しようかと思ったけど、最初の方にリスクを背負って行くのも男らしいかなと思って、知恵と勇気を振り絞ってゴールできました」
わずかながら成功者が現れたことで会場は大いに盛り上がり、挑戦者たちは長蛇の列をなしてゲームに参加した。
なお、私はこの大会において特筆するべき成果を上げることはできなかった。


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イベントの最後を華やかに演出したのは、主催を務めたたごさく氏による航空機パフォーマンスだった。
その操縦技術は、我々の文明からすれば恐ろしいまでに稚拙なものだった。
いつ会場に墜落してもおかしくない不安定な飛行。
しかし、その姿は空へのハングリー精神に満ちていた。
カレーが私に思い出させてくれた「もっと食べたい」という欲望。
それと通ずる魂が、カレーフェス会場上空を旋回していたのだ。
幸い"会場内”に負傷者が出ることはなく、たごさく氏は少し離れた場所からぎこちない歩みで会場へと帰還した。

こうして、カレーフェスは幕を閉じた。
おそらく、私の調査はまだ不十分なところもあるだろう。
幸いなことにたごさく氏より、イベント参加店舗のリストを入手することができた。
これを頼りに、さらなる追加調査を行うこととしよう。

🍛イベント参加店舗一覧🍛

ダイナーFUJI (1000) /カレーショップ止まり木 (1049) /料亭 財閥 (6178) /Fragaria (7086) /-Bistro- Bambi (7195) /ドッグカフェ ぽちのたまご (7334) /海鮮レストランPearls (8000) /Bakery Canvas (8043) /Ash.Domile (8083) /Sunshine Burger (8092) /福臨宴 (8141) /Cafe Planet. (8170) /PIZZA GEMMA (8188) /紅茶専門店Azure (8216) /ねこカフェ おあしす (8251) /Bar Violet Rose (9047) /Betelgeuse (9100)

※()内は店舗の所在番地。


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この度の調査で、学んだことがある。
それは、「食を楽しむ」ということだ。
我々の惑星において食事は単なる栄養補給の手段でしかなかった。
しかし、地球の人々は、より美味しく食事を楽しめるよう味の追求を行い、見た目にも楽しめるように盛り付けを工夫し、さらには食というキーワードを通じて人々が交流する場を設け、それを忘れられない思い出としてしまうのだ。
もしかしたら、このイベントをきっかけに新たなインスピレーションが生まれ、見たこともないカレーが作り出される未来もあり得るかもしれない。
その時はまた調査を行う必要があるだろう。

私はさっそく次の調査の準備として地球語辞典を開いた。
ああ、この例文は役に立ちそうだからメモしておこう。

「おかわりいただけるだろうか」

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