物語の中に足を踏み入れる一夜──『Hotel Gently Manor』体験レポート
執筆者: 舎捨 大 |
2025-12-29 22:00
イマーシブシアターというものをご存じだろうか。
近年、劇場という枠を飛び出し、街や建物そのものを舞台に、観客が物語の登場人物の一人として参加する没入型の体験が各地で注目を集めている。
観るだけではなく、その場に「いる」ことで物語が進行していく──そんな新しいエンターテインメントの形だ。
この秋、そんなイマーシブ体験に「謎解き」という要素を融合させたイベント「Hotel Gently Manor」が開催された。
参加者は物語の世界に足を踏み入れ、それぞれの視点で出来事を追いながら、ある事件の真相に迫っていく。
残念ながら筆者は11月の本公演期間に参加することが叶わなかったのだが、今回12月に期間限定で行われたリバイバル公演に参加する機会を得ることができた。
本記事では、今後さらなるリバイバル公演の可能性に鑑み、物語の核心には触れずに、その体験の一端をお伝えしたい。
▶非日常への招待
この舞台への招待は、真っ白なリムジンによる送迎から始まる。
運転手に促され、高級感あふれる車内へと足を踏み入れた瞬間から、すでに物語は始まっているように感じられる。
しばし運転に身を任せ、何気ない会話を交わしているうちに、見慣れたはずの風景が少しずつ非日常の色合いへと塗り替えられていく。その感覚が実に心地よく感じられた。
やがて見えてくるのが、今回の舞台となる「Hotel Gentry Manor」だ。
リムジンを降りると、ホテルのキャストたちが出迎えてくれる。
その頃には、筆者の心はすっかり“物語の中の客人”として、この場所に立っていた。
▶五感を満たす料理の数々
チェックインを済ませると、このイベントのもう一つの目玉であるコース料理の時間が始まる。
腕利きのシェフが素材からこだわり抜き、卓越した技術で仕上げた料理の数々は、まさに至高の一品……と言いたいところだが、筆者の語彙と貧乏舌ではその魅力を十分に伝えきれないのが正直なところだ。
強いて言うならば肉が……なんか……すごい、美味しかった。
ぜひ機会があれば、ご自身の五感で味わってほしい。
▶そして、物語の幕が上がる
食事を終え、いよいよこのイベントの“メインディッシュ”とも言える、参加者自らが挑むひとつの事件が動き出す。
この場で筆者の体験した顛末を語ることは控えるが、繰り広げられる物語はダイナミックな展開と、キャスト陣の圧倒的な演技力によって、何気ない視線や仕草、言葉の端々にまで意味が込められており、没入感は否応なく高められていく。
そして緻密に設計された謎解きは決して一筋縄でいくものではなかったが、その分、解き明かしたときの達成感と高揚感は格別だった。
舞台上では参加者それぞれの選択や気付きが体験を彩り、そしてひとつの答えに収束していく。
物語の終わりには、参加者とキャスト、舞台となった『Hotel Gentry Manor』までもが一体となってひとつのフィナーレが形作られ、その静かな余韻に包まれながら、この一夜は幕を閉じていく。
――体験レポートと銘打ちながら、具体的な内容に触れられないもどかしさはある。
しかし、多くのスタッフとキャスト、そして参加者自身が一体となって完成するこの物語は、何よりも「体験すること」そのものに価値があるのではないだろうか。
もし再び扉が開かれる機会があるなら、そしてまた新たな物語が紡がれる時が来たなら──その時はぜひ、あなた自身の足でこのホテルを訪れてみてほしい。
きっと忘れられない一夜が待っているはずだ。